映画『嘘を愛する女』
story
中江和仁 監督
1981年生まれ、滋賀県出身。2005年、武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業後、(株)サン・アドでCMディレクターに。その後、独立。ゆうちょ銀行の企業CM「ゆうちょ通り一丁目の人々シリーズ」や資生堂のシーブリーズ「ぼくとわたしの。シリーズ」、レオパレス21の続ドラマ、サントリーのオールフリーやサントリーウーロン茶「ご飯の幸福シリーズ」、胡麻麦茶など様々なCMを作る傍らで映画制作にも着手。2005年の『 single 』はPFF観客賞受賞、バンクーバー国際映画祭出品、シネマ・デジタル・ソウル出品作品に。2008年の『STRING PHONE』はADFEST(アジア太平洋広告祭) Fabulous4短編映画部門グランプリを獲得。2011年の『蒼い手』はサンフランシスコ短編映画祭グランプリ、モナコ国際映画祭ベストオリジナルショートストーリー賞・助演男優賞を受賞した。
ー どこから着想を得たのでしょうか?
「高校時代に辻仁成さんのあるエッセイを読んだ事がきっかけです。その中に実際に起きた事件のことを題材にしたエピソードがありました。事件とは、ある男性が病気になりながらも、全く病院に行こうとしない。その行動を不思議に思った内縁の妻が、その男の素性を調べたところ、名前はおろか、すべてが嘘だった。結果的に病状は悪化し、男性は亡くなります。その後、遺品の中から小説(原稿)が見つかるんです。辻さんは自分を消しつづけていた男が、小説という「もう一つの世界」を書いていたことに対して、かなりゾワゾワしたというか、作家として共感するものがあったらしいんです。僕自身もそれを読んでなぜ男性は嘘をついていたのか、なぜ小説を書かねばならなかったのか知りたいと思いました。そしてその後、事件はどうなったのだろうと、非常に興味を惹かれたのです。」

ー 事件について調べたのですか?
「大学時代に国会図書館で基となった新聞記事を見つけました。その頃にはインターネットが普及し始めていたので、事件のその後が載っていないかと頻繁にチェックしていました。そして何年か経った後、あるサイトに事件の続きが書かれているのをようやく見つけたのです。『よっしゃー、たどり着いた!』と思ったのもつかの間、その書き込みはいつの間にか削除されていました。きっとそれは誰かが適当に書いたイタズラだったのです。私は拍子抜けしました。しかし、そこでわかったことがあります。私が本当に知りたかったのは、男性が何者かということではなく、むしろその男性が女性と暮らしていた日々の営み、その2人の間に流れていた時間は“本物”だったのか、幸せだった時間さえ嘘だったのか……ということだったと。この記事を基にした物語を自分がどの時点で映画にできると思ったか、具体的なタイミングは覚えていませんが、大学に入った頃には映画化を考えていました。脚本自体は約10年間で100稿は書いています。」

ー 主人公・由加利を演じる長澤まさみさんについて
「川原由加利は元々40歳手前で、キャリアを選ぶのか恋を選ぶのか、でも相手は嘘つきの男性、さあどうする? そろそろ子供も……という設定でしたが、30代の長澤まさみさんが演じることで、キャリアウーマンという設定は残しつつ、改めて人物像を練り直すことにしました。また、長澤さんがヒロインならば、最初は少し嫌味な女に見せて、でも最後には許せて共感できるというキャラクターの方がより魅力的に感じられるのではないかと考え、ヒロイン像を作っていきました。長澤さんの印象は、とにかく真面目に演じてくださる方。そして、本番になると急にスイッチが入り、注文をつけると、どんどん火がついていくタイプですね。」

ー 高橋一生さん、吉田鋼太郎さんについて
「海原は『殺人の追憶』のソン・ガンホをイメージにしたいと吉田さんに伝えました。仕事も真面目にするけれど、ユーモアもあって愛されるキャラクターにしたいと。緊張感が高まるシーンで少し笑いにする演出を目指していましたね。高橋さんが演じた小出桔平という役は、台詞がなくても表情や雰囲気だけで、何か背負っている陰のある人に見せたかった。そういう意味で高橋さんの持つ雰囲気は、桔平にハマったと思います。」

ー CMと映画の違いは?
「CMの場合、事前に絵コンテを書き、クライアントの了承を得て、コンテに沿って撮影する。つまり事前に頭の中で出来上がりの映像が想像できないと15秒、30秒の世界に収めるのは難しいです。逆に言うとこっちの思惑通りに役者には芝居をしてもらわないといけないし、たとえ芝居が良くても、尺の関係で『もっと早く喋って』とか、『この角度で商品出して』とか、そういう指示をせざるを得ないことが多々有ります。一方で、映画の場合は役者の芝居を見て、演出を変えていく印象です。彼らの良いところをどんどんすくい上げていくというか。実際には事前に絵コンテを書いて臨みましたが、それをいったん捨て、その場で新たな判断をしていくことが多かったですね。」

ー どのように観て貰いたいですか?
「ヒロインの“自分たちが過ごした時間が本物だったのかを確かめる旅”がテーマになっています。観終わった後に自分の恋人やパートナーとちゃんと向き合っているか、少し見直してもらえたら嬉しいです。」
PAGE TOP